この街の何処かに



10代の頃、上京してすぐ決めたマンションは、
今なら絶対に選ばない条件ばかり揃っていたのですが、
それでも二年ほど、住みました。

道路から少し奥まったところにあるマンションでしたが、
低層階に引っ越してすぐ、異変に気づきました。

朝から晩まで、誰かが騒いでいるのです、まるでパーティーのように。
真夜中になると今度は、下から印刷機のような音が響き渡る、といった具合。
それが毎日。毎日。

当時の私は、一体何が起こってるのかわからず、
「一人暮らしって、東京に住むって、こういうことだっけ?」と混乱に耐えていましたが、
よくよく調べたら、同じフロアにAV制作会社、
下にはある団体の事務所が入っていたことが判明。
どちらも非常に出入りが多かったので、寂しくはありませんでした。
ですが、常に落ち着かない雰囲気がストレスになり、
ダメモトで大家さんに泣きついたところ、そのままの家賃で最上階へ移ることに。
今思えば、この展開がラッキーの始まりでした。

部屋に入ってベランダに出ると、街が一望できるお部屋でした。
少し遠くには、都庁が見えていました。

朝起きてカーテンを開けると、透明な光がビルを輝かせてるのが見えて、
なんだかワクワクする気持ちで毎日が始まります。
雨の日はしっとりと艶やかで、いつまでも眺めていられました。
夜になると、その下に広がる家やビルの明かりが、
ガラスの破片が散らばるように、瞬いていました。

しかも、屋上に出る扉は鍵がかかっておらず、いつでもすぐに出られる状態。
(今なら考えられないけれど・・・)
ほとんどMy屋上状態で、
嫌なことがあると屋上にあがって気分転換をしたり、
好きな人がいる方向を向いてはため息をついたり。
自分の好きなように使っていました。

東京は不思議。
地上はあんなに騒々しいのに、高いところから見ると優しく、静かに見える。

その部屋では、いろんなことがありました。
一番良かったのは、変わったマンションだと面白がって、
後に友達になった人たちが、次々と遊びにきてくれたこと。
良くも悪くも、あまりひとりでいる時間がなかった。

悲しいことも、別れもあったけれど、
大切な人たちとの出会いや、嬉しいことや楽しいことのほうが多かった。

六畳一間、収納無し、駅から15分以上、
入居する人たちが変わっていたり、エレベーターが時々故障する等々、
今思えば一癖も二癖もあるマンションでしたが、
それでも、毎日が新鮮でワクワクに満ちた時間をくれた大好きな部屋が、
私にはあります。

この街の何処かに。

Comments

  1. 想像が膨らむ話ですねー!^ ^
    春の陽気と相俟って、大学の頃の青春を思い出しました。
    この話をベースに三木聡みたいな映画が作れるんじゃないかと妄想しています…。(゜ё゜)笑

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  2. タイトル、写真、文章、すべてが絶妙に合ったエントリですね!
    前の方も書いていらっしゃいますが、僕も大学のころを思いだしました。といっても、僕の場合はもっと泥臭い学生寮風のおんぼろアパートでしたけど。(笑)
    住んでいた当時ですでに築 40 年以上。卒業してまもなく取り壊されました。ちょっと寂しかったですね、さすがに。

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  3. あー、三木聡さんいいですよねー。
    でもそんな感じです、大学時代。
    まったり、ゆったり、不毛なことしかしませんでした(爆

    春はなんだか、やはり、いろんなことを想いますね・・・。
    カドヤさんの写真も楽しみにしています!

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  4. この記事、けっこう練りました(笑
    なので、褒めていただいてかなり嬉しいです!
    このエントリで、大学時代を思い出された方、
    けっこういらっしゃるみたいです。
    春はそんな季節ですね。
    Makotoさんのおんぼろアパートの大学時代も、
    かなり面白そうですね。ネタ満載感があるというか。
    もう取り壊されてるなんて、さびしーですね!

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  5. 色々考えされられた記事と写真でした。
    思わず新潟での大学時代を思い出したよ。
    ものすごーいおんぼろ下宿でね。
    おばあちゃんとおじいちゃんがやってるところで
    たまにお話するんだけど新潟弁がひどくて
    何言ってるか全然わかんないの。笑

    新潟で豪雪地帯の長岡なのに建物古すぎて
    隙間風がひどくてさ、部屋の中でコートは必須だし
    コートきたまま布団も三枚くらいきないとだめだった。
    洗濯機は二層式で手が凍るんじゃないかって思ったし
    共同炊事場は水しかなくてお湯がなくって皿洗うのも
    大変だったなー。

    結局卒業して数年で取り壊されたみたいだけど
    今思えばいろんな思い出が詰まった下宿だったなと。

    この記事でいろんなこと思い出せてよかったです。
    ありがとう。

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  6. 新潟の長岡、めっちゃ豪雪地帯ですね!
    雪景色、共同炊事場、おんぼろ下宿・・・。
    映画のセットになりそうな、
    私からしたら「素敵!」な場所で過ごされたのですね。

    今ならモノクロで撮りたい気分ですね!

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